イビキのマスキングに関する一検討
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近年イビキは社会問題となっており,巷では多くのイビキ対策商品が販売され ている.しかし,イビキをかいている人が,自分はイビキをかいているというこ とに気づいていない人も多く,また公共の場でイビキをかき,周りの迷惑になっ ていることもある.イビキをかく人への支援は多くされているが,イビキの被害 を受けている人への支援は少ないのが現状である.
イビキの被害を受けている人への支援として,Active Noise Control (能動的騒 音制御, 以下 ANC) を利用する研究がされている. ANC は対象とする雑音に対し てリアルタイムに逆位相の音を重ねあわせることによって音を低減する技術であ る.したがって定常音を ANC で抑圧するのは容易だが,非定常音はリアルタイム に逆位相の音を重ねあわせるのが難しいため雑音が残ってしまうという課題があ る.また,非定常音であるイビキを気にならなくするという観点では,非定常音 をマスキングという技術で気にならなくする研究が行われている.為末らは非定 常音であるスピーチ音を,マスキングによってスピーチのうるささを低減する研 究を行った.結果は,ピンクノイズが非定常音のうるささを低減するのに有効で あると示した.しかし,不快である音をマスキングするのに,マスキング音自体 が不快である可能性がある.
本研究ではノイズキャンセリングヘッドフォンを装着して何らかの思考的作業 を行う状況を想定し,ANC では抑圧できないイビキをマスキングする音を検討し た.また,イビキ音をマスキングするだけでなく,作業の効率を落とさないこと も重要であると考えられる.そこで,マスキング音には環境音や音楽などを用意し,そのような音環境下における作業効率と不快感を調査する.実験では被験者 にヘッドフォンでマスキング音を聞きながら日本語の文法問題を解いてもらい,イ ビキが聞こえたらボタンを押してもらった.マスキング音には 6 種類の音:マスキ ング音なし,ピンクノイズ,雑踏音,雨,歌詞のないポップな曲 (Jive),歌詞のな いゆったりした曲 (Abyss) を用意し,各マスキング音に対してイビキを流す条件 と流さない条件の計 12 条件で実験を行った.イビキは 3 種類用意し,各イビキに 対して 40, 50, 60dB の 3 音圧の計 9 つのイビキ音を 1 条件に対して再生した.1 条 件につき 5 分間の作業後に 2 分間の休憩と,作業時の音環境についての 7 段階の評 価を行ってもらった.
実験の結果,マスキング音がない場合にイビキの有無での正答数の平均の差が 13.2 問であったのに対し,全てのマスキング音に関してはイビキの有無による正 答数の差は 3.3 問以下であり,無音に比べて正答数の差が小さかった.またイビキ に気づいた回数に関しては,雑踏音と Abyss が 9 回中 2 回以下であり,他のマスキ ング音よりイビキに気づきにくかった.これは,これらが低音域の音圧が強いマ スキング音であるということが要因と考えられる.一方,雨は気づかれた回数の 平均が 4.5 回であり,他のマスキング音よりイビキに気づかれる回数が多かった. 不快感の主観評価に関しては,雨,Jive,Abyss は他のマスキング音より評価が高 い傾向が見られた.雑踏音は他のマスキング音より評価が低い傾向が見られたが, 普段騒がしい場所で勉強をしている人は,静かな場所で勉強している人と比べ,イ ビキなしだと 1.4,イビキありだと 0.8 評価が高かった.